認知症の夫や妻と離婚できる?認知症は強度の精神病?悪意の遺棄ではない?

配偶者が認知症になると、介護負担、経済的困窮、夫婦関係の変化、老後の不安など様々な課題や問題が生じるため、結婚生活の継続が苦痛になって離婚を考える人も少なからずいます。

この記事では、離婚制度や、認知症の夫や妻との離婚について解説します。

離婚について

認知症と離婚について解説する前に、日本の離婚制度について見ておきます。

離婚に必要な2つの要件(協議離婚)

離婚は、民法に定められた身分行為(法律上の身分関係を変更する行為)です。

そのため、法律上の離婚をするには、法律に定められた「実質的要件」と「形式的要件」を満たさなくてはなりません。

  • 実質的要件:法律上の夫婦に、婚姻関係を解消する意思があること
  • 形式的要件:離婚届を市区町村に提出すること(離婚届を役場に提出し、受理されること)

実質的要件は、離婚届を提出する時点で要件を満たしている必要があります。

例えば、離婚したい夫が、離婚したくない妻に黙って離婚届を提出したとしても、離婚届を提出する時点で実質的要件を満たしていないため、離婚は無効です。

一旦は夫婦で離婚することに合意して離婚届を作成したとしても、離婚届を提出する時点で夫婦の両方または一方が離婚する意思をなくしていれば、やはり離婚は無効となります。

また、離婚届を市区町村に提出して受理されない(形式的要件を満たさない)限り、夫婦が離婚する意思を有していても、離婚することはできません。

関連記事(外部リンク)

法定離婚事由とは?離婚原因・原因がないと離婚できない?

離婚の方法

離婚の方法は、協議離婚、調停離婚、審判離婚、裁判離婚の4種類あります。

  • 協議離婚:離婚届を市区町村に提出して離婚
  • 調停離婚:家庭裁判所の調停で離婚
  • 審判離婚:家庭裁判所の審判で離婚
  • 裁判離婚:家庭裁判所の人事訴訟手続(裁判)で離婚(判決離婚、認諾離婚、和解離婚)

協議離婚は、夫婦の話し合いによって①離婚することと②離婚の条件(子どもの親権、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割など)を決め、離婚届を市区町村に提出して離婚する方法です。

夫婦だけで話し合いがまとまらない、または話し合うことが難しい場合は、家庭裁判所の調停を利用して離婚について話し合うことができます。

家庭裁判所の調停では、調停委員会(裁判官1人と男女各1人の調停委員で構成される、調停を運営するグループ)が、離婚することや離婚条件について夫婦それぞれから主張や意見を聞き、夫婦の両方が納得できる案を一緒に考えてくれます。

調停で話がまとまれば、調停離婚が成立します。

調停でほぼ話がまとまっているけれど、些細な条件で折り合わない、夫婦の一方が調停期日になかなか出頭できないなどの事情がある場合は、調停でまとまった内容に基づいて家庭裁判所が審判で離婚を決めることがあります(審判離婚)。

一方で、調停で話がまとまらない場合、家庭裁判所に離婚の裁判(人事訴訟事件)を起こし、裁判で離婚することもできます(裁判離婚)。

裁判離婚には、判決離婚、認諾離婚、和解離婚の3種類あります。

  • 判決離婚:家庭裁判所が離婚や離婚条件を判断する
  • 認諾離婚:被告が原告の請求を認諾(受け入れる)する
  • 和解離婚:原告と被告が裁判手続きの中で和解する

関連記事(外部リンク)

離婚の種類と手続の順番は?各離婚手続の方法と特徴は?

離婚事由

民法では離婚できる事情(離婚事由)が5つ定められています。

  1. 不貞行為(配偶者以外と性的関係を持つこと)
  2. 悪意の遺棄(夫婦が互いに協力し助け合う義務を放棄し、配偶者を放置すること)
  3. 3年以上の生死不分明(配偶者が3年以上生死の分からない状態にあること)
  4. 回復の見込みのない強度の精神病(夫婦の精神的つながりがなくなるほどの精神病)
  5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由(1.~4.に該当しないけれど、夫婦関係を破たんさせる事情)

協議離婚や調停離婚(審判離婚)では、理由が何であれ夫婦の合意があれば離婚が成立します。

一方で、裁判離婚では離婚事由を満たしていないと離婚することができません。

関連記事

法定離婚事由とは?離婚原因・原因がないと離婚できない?

認知症の夫や妻と離婚できる?

では、認知症の夫や妻との離婚について見ていきます。

認知症の夫や妻との離婚は、認知症の症状の程度によって方法が異なります。

認知症の症状が軽度の場合(判断能力が残っている場合)

認知症初期で、夫婦で離婚することや離婚条件の合意ができるだけの判断能力が残っている状態であれば、夫婦の合意に基づいて離婚届を市区町村に提出する協議離婚ができます。

必要になるのは、離婚届を提出する時点で、夫婦に離婚する意思があること(実質的要件)と、離婚届が受理されること(形式的要件)です。

認知症の症状が重度の場合(判断能力が低下している場合)

認知症の症状が進行すると認知機能が低下し、判断能力(事理を弁識する能力)も失われていきます。

判断能力が不十分な状態では、離婚や離婚条件について適切に判断することが難しく、夫婦の合意が必要な協議離婚や調停離婚(審判離婚)はできず、裁判で離婚することになります。

認知症の夫や妻との裁判離婚

認知症の症状の進行によって判断能力が低下した相手と離婚するには、家庭裁判所が離婚を判断する離婚裁判(人事訴訟事件)で離婚することになります(裁判離婚)。

裁判離婚するには、民法に定められた5つの離婚事由のいずれかが存在する必要があります。

認知症が該当しそうなのは「回復の見込みのない強度の精神病」ですが、判例(過去の裁判において裁判所が示した判断)では、「病気の性質等に照らせば、認知症が強度の精神病に該当するか否か疑問が残る」とされています。

一方で、同じ判例では、以下の状況を考慮して、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に基づく離婚請求を認めています。

  • 妻がアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)とパーキンソン病に罹患し、寝たきりで会話も成立しない状態になり、禁治産宣告(現在の後見開始)を受けている
  • 妻は長期間にわたって夫婦間の協力義務を全く果たせておらず、夫婦関係が破たんしていることが明らかである
  • 妻の発症後、夫が家事を担い、妻の介護も献身的にこなし、妻の後見人にもなっていた
  • 離婚を求める夫が、離婚後も妻への経済的援助や面会の継続を予定している
  • 妻の両親が既に他界し、親族ともほぼ交流がない
  • 妻は老人ホームに入所しているが、離婚後の老人ホームの費用は全額交付負担になる予定である

この判例に基づくと、以下の状況であれば、離婚裁判で「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に基づいて離婚が認められる可能性があると言えます。

  • 夫や妻が認知症を発症して寝たきりなどの状態になり、長期間にわたって夫婦間の協力義務を全く果たせていないこと(夫婦関係の破たんが明らかである)
  • 離婚を求める人が、認知症の夫や妻の介護などを献身的に行ってきたこと
  • 離婚後、認知症の夫や妻が衣食住や経済的に困らず生活できる見込みがあること(離婚後の生活保障)

ただし、これらの条件を満たすのは容易ではなく、また、条件を満たしても必ず離婚が認められるとは限りません。

離婚裁判には認知症の夫や妻に成年後見人が必要

認知症を発症して判断能力が低下した人は、自力で裁判を行う能力がないとみなされるため、離婚裁判をするには、認知症の夫や妻について成年後見人を選任する必要があります。

あらかじめ、家庭裁判所に「後見開始の審判」などを申し立てて、①認知症の人に後見を開始するとともに、②認知症の人の財産管理や身上監護を担う成年後見人を選任してもらいます。

認知症の人に成年後見人をつけずに離婚裁判を起こすと、家庭裁判所からまず後見開始の審判を行うよう指示され、裁判が中断します。

なお、成年後見人とは、成年後見制度において、判断能力を欠く常況にある人の財産管理や身上監護を担う人です。

家庭裁判所が、ケースに応じて弁護士などの専門職や親族などを選任します。

成年後見制度や成年後見人については、関連記事で詳しく解説しています。

関連記事

成年後見制度とは?わかりやすい説明と図で解説

ピックアップ記事

  1. 認知症 離婚
    配偶者が認知症になると、介護負担、経済的困窮、夫婦関係の変化、老後の不安など様々な課題や問題が生じる…
  2. 認知症かなと思ったら,気づく,ポイント,チェック
    認知症を根治させる方法は見つかっていませんが、症状の進行を遅らせたり、日常生活の支障を和らげたりする…
  3. 障害者手帳 精神障害者保健福祉手帳 認知症
    認知症の人は、障害者手帳を取得することができます。 障害者手帳を取得していると、税金の控除・減免、…
  4. 認知症は、高齢者だけの病気ではなく、若いうちから発症することがあります。 65歳未満で発症した認知…
  5. 認知症カフェ
    認知症を発症すると、日常生活の様々な場面で支障が出て不安や焦りが募り、孤立しがちです。 また、認知…
  6. 新オレンジプラン 認知症施策推進総合戦略
    厚生労働省は、65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人が2012年時点で約462万人おり、20…
  7. 認知機能の減衰
    軽度認知障害(MCI)は、認知症予備軍やグレーゾーンと呼ばれる状態です。 放置すると症状が進行して…
  8. 認知症による物忘れと加齢による物忘れ
    認知症の主な症状の一つである記憶障害(物忘れ)は、加齢による物忘れと混同されやすいものです。 しか…
  9. 認知症の中核症状と周辺症状
    認知症の症状は、中核症状と周辺症状の2種類に分類されます。 認知症の中核症状と周辺症状は、起こる原…
  10. 認知症 基礎知識
    最近、認知症という名前はよく見聞きするようになりました。 しかし、認知症がどのような病気なのか、何…

特集記事

  1. 遺産分割 認知症

    認知症と遺産分割!相続人に認知症の人がいると成年後見人が必要?

    遺産分割は、亡くなった人(被相続人)の財産を相続人に移す法律行為であり、相続人には意思能力が備わって…
  2. 成年後見 申立て 審判 鑑定

    成年後見の手続の流れ!申立てから面接調査、鑑定、審判までの期間は?

    すでに判断能力が低下した人(本人)の支援のために法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に成年後見の申…
  3. 成年後見 審判 確定 後見人になれる人

    成年後見の手続の流れ!審判で後見人になれる人は?確定までの期間と登記は?

    すでに判断能力が低下した人(本人)の支援のために法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に成年後見の申…
  4. 成年後見登記制度 登記されていないことの証明書

    成年後見登記制度とは?登記事項証明書の申請と手数料は?登記されていない証明は?

    成年後見制度では、ある人が制度を利用しているかどうかについて、第三者が知ることができるよう登記の制度…
  5. 成年後見 申立て 申立人 申立費用 必要書類

    成年後見の申立て準備!申立人(申立権者)、申立費用、必要書類は?

    すでに判断能力が低下した人(本人)の支援のために法定後見制度を利用する場合、家庭裁判所に成年後見の申…
  6. 成年後見人 報酬 基準 相場

    成年後見人の報酬付与申立ての方法は?申立書・事情説明書の書き方、基準、相場は?

    成年後見人等は、本人の権利や財産を守るため、療養監護や財産管理の事務を行った報酬を受け取ることができ…
  7. 後見人 仕事 いつまで

    成年後見人の仕事はいつまで?辞める場合の条件と手続は?解任もある?

    成年後見人等は、一旦選任されると、当初の目的を達成しても仕事を続けることになっており、仕事を終えるこ…
  8. 後見 保佐 補助 呼び方

    成年後見監督人とは?職務と報酬、選任手続は?

    本人の親族等が成年後見人等に選任された場合、家庭裁判所が成年後見監督人等(成年後見監督人、保佐監督人…
  9. 成年後見人 仕事

    成年後見人の仕事内容は?療養監護と財産管理、家庭裁判所への報告とは?

    成年後見制度では、本人の財産や権利を守るために、家庭裁判所が成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人…

Facebookページ

ページ上部へ戻る