成年後見制度の質問(Q&A)~遺産分割、利益相反、相続放棄、居住用不動産~

成年後見制度でよくある質問について、分かりやすい解説と関連記事の案内をしています。

この記事で解説している質問は、以下のとおりです。

  • 遺産分割を目的として成年後見制度を利用できますか?
  • 本人が相続人の一人になっている遺産分割はどう進めればいいですか?
  • 特別代理人にはどのような役割がありますか?
  • 本人の相続放棄を成年後見人が手続することはできますか?
  • 本人名義の居住用不動産は成年後見人の判断で処分できますか?
  • 居住用不動産を本人の財産で建て替えることはできますか?

遺産分割を目的として成年後見制度を利用できますか?

結論から言えば、利用することができます。

ただし、一旦、成年後見制度を利用すると、原則、本人が死亡するまで後見事務を行う必要があるなどデメリットも多いため、事前に確認した上で利用するかどうか慎重に検討しなければなりません。

遺産分割のために成年後見制度を利用するデメリット

まず、遺産分割を目的として後見開始の審判を申し立てた場合、親族後見人ではなく法律に詳しい専門職後見人が選任される可能性が高くなります。

専門職後見人が選任されると、後見事務の内容に応じて報酬が発生するため、取得する遺産の額によっては、かえって本人の財産が減少することもあり得ます。

また、後見開始の審判がされて成年後見人が選任されると、特別な事情がない限り、遺産分割が終わった後も認知症の人が亡くなるまで後見事務を継続しなければなりません。

成年後見制度は、本人の財産や権利の保護を目的とした制度であり、制度利用の目的が遺産分割で目的が達成されたとしても、本人の財産や権利の保護が必要なくなるまでは後見事務を続ける必要があるのです。

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本人が相続人の一人になっている遺産分割はどう進めればいいですか?

遺産分割は、遺産の移転の効果を生じさせる法律行為です。

遺産分割を行うには「自分の行為が法律的にどのような結果を生じさせるかを認識できる能力=意思能力」が必要です。

意思能力を欠く本人が相続人の場合、成年後見人が本人に代わって遺産分割手続に参加し、本人が相続分に応じた利益を確保できるよう主張することになります。

遺産分割の手続

遺産分割の手続は、以下の3種類あります。

  • 遺産分割協議:相続人同士で遺産の分け方を話し合う
  • 遺産分割調停:家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員会を交えて話し合う
  • 遺産分割審判:遺産分割協議や調停でまとまらない場合に、家庭裁判所が分割方法などを決める

通常、遺産分割協議がまとまらない場合に遺産分割調停、遺産分割調停でもまとまらない場合に遺産分割審判で遺産を分割することになります。

遺産分割の方法

  • 現物分割:遺産を現物のまま分割する
  • 換価分割:遺産を売却して代金を分割する方法
  • 代償分割:相続人の一部が遺産を多く取得し、別の相続人にお金を支払う

どの方法で分割するかについては、相続人と成年後見人で十分に話し合う必要があります。

成年後見人としては、本人が相応の利益を得られるよう主張しなければなりません。

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本人と成年後見人がともに相続人の場合

家庭裁判所に特別代理人選任を申し立て、本人の利益のために働く特別代理人を選任してもらう必要があります。

特別代理人には成年後見人を含む相続人以外の人が選任され、遺産分割協議において、成年後見人に代わって本人の利益を主張することになります。

特別代理人にはどのような役割がありますか?

特別代理人とは、本人と成年後見人の利益が相反する行為について、本人の利益のために代理権を行使する仕事です。

成年後見人は、本人の財産行為について包括的な代理権を付与されており、それを行使して本人の財産を適切に管理する責任があります。

しかし、本人と成年後見人が共同相続人になっている遺産分割など、本人と成年後見人の利益が相反する行為については、家庭裁判所が選任した特別代理人が本人の利益に配慮して代理権を行使することとされています。

特別代理人選任の申立て

特別代理人を選任するには、家庭裁判所に特別代理人選任を申し立てます。

  • 申立権者:利害関係人(成年後見人など)
  • 申し立てる場所:後見開始の審判をした家庭裁判所
  • 申立てに必要な書面・資料:申立書、本人と成年後見人の戸籍謄本、特別代理人の戸籍附表または住民票、利益相反に関する資料、利害関係があることを証明する資料
  • 申立て費用:収入印紙800円分、郵便切手

特別代理人になれる人

家庭裁判所が、本人や成年後見人との利害関係がなく、特別代理人に求められる仕事を適切に実行できる能力がある人を選任します。

特別代理人の報酬

特別代理人は、家庭裁判所へ報酬付与の審判を申し立てることにより、家庭裁判所が決定した金額を本人の財産から受け取ることができます。

本人の相続放棄を成年後見人が手続することはできますか?

被相続人に負(マイナス)の財産しかないことが明らかで、本人を含む親族全員が相続放棄を行う場合は、成年後見人が本人の相続放棄の手続を行うことができます。

ただし、本人と成年後見人が共同相続人である場合は、本人について特別代理人を選任しなければなりません。

また、本人以外の相続人に遺産を全て承継させる目的で本人の相続放棄を行うなど、本人の利益が損なわれるおそれがある相続放棄は認められません。、

本人名義の居住用不動産は成年後見人の判断で処分できますか?

本人名義の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。

精神上の障害のある本人は、居住環境が変わると日常生活や心身に大きな影響や支障が出ることが多いことから、処分については慎重に判断する必要があるとされており、法律上も家庭裁判所の許可を得なければならないと定められています。

居住用不動産とは、本人が住んでいる土地家屋だけでなく、将来居住する可能性があるところ、過去に居住していたところなども該当します。

居住用不動産の処分の「処分」には、売却だけでなく、賃貸、賃貸借契約の解除、取り壊し、使用貸借契約の締結、抵当権・譲渡担保権・仮登記担保権の設定なども含まれています。

居住用不動産の処分の申立て

  • 申立権者:成年後見人など
  • 申し立てる場所:後見開始の審判をした家庭裁判所
  • 申立てに必要な書面・資料:申立書、処分予定不動産の登記事項全部証明書、固定資産税評価証明書、契約書の写しなど
  • 申立て費用:収入印紙800円分、郵便切手

家庭裁判所は、提出書類や資料などに基づいて居住用不動産処分の必要性を検討し、許可するか否かを判断します。

例えば、本人の生活費が底をつき、まとまった生活費を得るために居住用不動産を処分するのであれば、許可されます。

一方で、管理に手間と時間がかかるため処分したいなど、成年後見人の都合で処分を希望している場合は、本人への影響の大きさを検討した上で判断が下されます。

居住用不動産を本人の財産で建て替えることはできますか?

家庭裁判所に居住用不動産の処分を申し立て、許可されれば立て替えることができます。

本人が現に居住する予定で、本人の自室が確保され、トイレや浴室などがバリアフリーになっているなど、本人のための建て替えであれば、許可されることがあります。

ただし、本人以外も同居する場合は、建て替え費用を全額本人の財産から支出するのは相当ではなく、同居者も負担しなければなりません。

また、本人が施設入所中で帰宅見込みがないのに建て替えるなど、本人のためではない建て替えは、原則、認められません。

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