軽度認知障害(MCI)とは?症状、検査、診断基準は?治療で回復する?

軽度認知障害(MCI)は、認知症予備軍やグレーゾーンと呼ばれる状態です。

放置すると症状が進行して認知症を発症してしまいますが、早期に発見して適切な対策を行うことで、発症を予防したり遅らせたりすることができます。

この記事では、軽度認知障害(MCI)の原因、症状、検査、診断基準、治療について解説します。

軽度認知障害(MCI)とは

軽度認知障害とは、記憶力などの認知機能の1つが低下しているけれど、日常生活に大きな支障はない状態のことです。

英語表記の「Mild Cognitive Impairment」の頭文字をとって「MCI」とも呼ばれています。

軽度認知障害から認知症へ進行する

軽度認知障害の段階では、日常生活に大きな支障はありませんが、適切な対応をせず放置すると症状が進行し、高い確率で認知症を発症します。

軽度知的障害と診断された人の約10%は、診断から1年で認知症へと進行すると推計されています。

一方で、早い段階で軽度認知障害に気づき、適切な対応をすれば、認知機能の低下を遅らせたり、回復させたりできることがあります。

ただし、一度低下した認知機能を回復させるのは難しいのが現状です。

認知機能の回復とは、軽度認知障害によって「低下した認知機能を正常な状態まで引き戻す」のではなく、「認知機能の減衰の程度を正常なレベルまで回復させる」ということです。

認知機能の減衰

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軽度認知障害の人数

厚生労働省は、2012年時点で、軽度認知障害の人が日本全国で約400万人、認知症の人が約462万人いると発表しています。

認知症と軽度認知障害の人を合計すると約862万人で、65歳以上の人口の約4分の1に上ります。

つまり、推計上、65歳以上の高齢者の4人に1人が認知症または軽度認知障害ということになります。

軽度認知障害(MCI)で低下が見られる認知機能

認知機能とは、物事を記憶する、判断する、理解する、計算する、言葉を使う、深く考えるといった頭の働きのことです。

認知機能の分類方法は複数ありますが、以下の5つに分けるのが一般的です。

  • 記憶力:物事を覚えておく力
  • 判断力:自他の状況(見当識など)を把握して適切に注意を向け、判断する力
  • 遂行力:段取りを決めて行動する力
  • 計算力:計算する力
  • 言語能力:読み書きや会話など言葉を使う力

軽度認知障害では、いずれかの認知機能が加齢による衰えを超えるレベルで低下します。

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軽度認知障害(MCI)の定義

軽度認知障害の定義は、以下のとおりです。

  • 本人または家族から記憶障害の訴えが認められる
  • 加齢による影響では説明できない記憶障害がある
  • 日常生活動作は正常である
  • 全般的な認知機能は正常である
  • 認知症ではない

本人または家族から記憶障害の訴えが認められる

軽度認知障害の人は、自身の記憶障害(物忘れ)について「以前より物忘れがひどくなった。」、「思い出せないことが多くなった。」といった自覚症状があります。

また、家族も本人の物忘れがひどくなったことに気づきます。

加齢による影響では説明できない記憶障害がある

人の認知機能は、記憶力は20代をピークに減衰が始まり、その他の機能も、60代頃には脳の生理的な老化によって衰え始めます。

加齢による認知機能の老化は、誰にでも訪れる自然な現象です。

こうした加齢の影響を超える程度の物忘れが見られる場合に、軽度認知障害の可能性を疑います。

日常生活動作は正常である

日常生活動作とは、日常生活を送る上で不可欠な基本的な行動のことです。

例えば、食事、着替え、排泄、入浴、移動、歯磨き、洗面、整髪などが日常生活動作です。

軽度認知障害の人は、記憶障害など認知機能の低下が認められますが、日常生活動作は正常に行うことができます。

全般的な認知機能は正常である

軽度認知障害は、「認知機能のうち1つの機能が低下している状態」であり、機能低下した認知機能以外は正常に保たれています。

例えば、顕著な記憶障害が認められても、言語能力や判断力、計算力など他の認知機能は保たれています。

認知症ではない

軽度認知障害は、同年代の健常者に比べて認知機能の一部に顕著な機能低下が見られるものの、認知症には至っていない、いわば健常と認知症の中間の状態(グレーゾーン)です。

また、放置すると高い確率で症状が継続して認知症へ進行するため、軽度認知障害の人は認知症予備軍とされています。

軽度認知障害の種類

軽度認知障害は、記憶障害の有無によって健忘型と非健忘型の2つに分類されます。

また、健忘型については記憶障害以外の認知機能障害の有無で、非健忘型については認知機能障害の数で、さらに2つに分類されます。

健忘型軽度認知障害(MCI)単領域障害

記憶障害は「あり」、その他の認知機能障害は「なし」の軽度認知障害です。

放置すると、アルツハイマー型認知症を発症することがあります。

健忘型軽度認知障害(MCI)多領域障害

記憶障害は「あり」、その他の認知機能障害も「あり」の軽度認知障害です。

放置すると、アルツハイマー型認知症や脳血管障害型認知症を発症することがあります。

非健忘型軽度認知障害(MCI)単領域障害

記憶障害は「なし」、その他の認知機能障害は「1つのみあり」の軽度認知障害です。

放置すると、前頭側頭型認知症を発症することがあります。

非健忘型軽度認知障害(MCI)他領域障害

記憶障害は「なし」、その他の認知機能障害は「複数あり」の軽度認知障害です。

放置すると、レビー小体型認知症や、脳血管障害型認知症を発症することがあります。

軽度認知障害の検査と診断基準

軽度認知障害は、認知症には至らないものの、認知機能の一部が加齢の影響を超えるレベルで低下している、いわゆるグレーゾーンの状態です。

認知機能の低下した領域や程度などの個人差が大きいため、認知症の専門医でも、加齢による物忘れとの区別が難しいものです。

通常は、認知機能検査や脳画像診断検査などで認知症かどうかを確認し、認知症の診断基準に該当しない場合は、検査結果等を踏まえて総合的に判断します。

長谷川式認知症スケール

軽度認知障害の診断では、認知機能検査として長谷川式認知症スケールが使用されるのが一般的です。

長谷川式認知症スケールは、どこでも短時間で認知機能を確認できる検査で、多くの医療機関で使用されています。

ただし、あくまで簡易な検査なので、検査結果のみで診断がつくことはありません。

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脳画像診断検査

認知症の人の脳は、萎縮や壊死など視覚的に確認できる変化や変容があるため、認知症の診断にはMRIやCTなど脳画像診断検査が活用されています。

軽度認知障害が疑われる場合も、認知症かどうかの確認のために、脳画像診断検査が行われることが多くなっています。

軽度認知障害の治療

軽度認知障害は、早期に発見して症状に応じた対応をすることで、認知機能を回復させたり、認知症の発症を遅らせたりすることができます。

具体的な方法は、脳の状態を良好に保つ生活習慣を身につけることと、認知機能を鍛えるトレーニングを継続することです。

脳の状態を良好に保つ生活習慣

認知症に関する研究結果から、アルツハイマー型認知症の発症には、日々の生活習慣や環境の要因が関係していることが分かってきました。

例えば、バランスの良い食事、適度な運動、他人との交流、知的な行動、良好な睡眠などが効果があるとされています。

認知機能を鍛えるトレーニング

軽度認知障害で低下した認知機能を意識して使うことにより、機能を回復させたり機能低下を遅らせたりできることがあります。

例えば、記憶障害が見られる場合は、数日前のことを思い出して記録することで、記憶力を回復させたり機能低下を防いだりすることができます。

トレーニングの内容や方法は、低下した認知機能、本人の興味関心やモチベーションなどを考慮しながら、日常生活の中で無理なく行えるものを考えることになります。

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軽度認知障害(MCI)と任意後見制度

日本では、認知症などで判断能力が人を保護する制度として成年後見制度が整備されています。

既に開設したとおり、軽度認知障害(MCI)は認知機能の低下が認められるものの日常生活に大きな支障は出ていない状態で、将来的に認知症を発症するリスクがあります。

認知症発症後は、財産管理や身上監護を自力で行うことが困難になるため、親族などが本人について成年後見制度(法定後見制度)の利用を検討することになります。

一方で、任意後見制度を利用すれば、本人が判断能力低下後の支援内容をあらかじめ取り決めておくこともできます。

任意後見制度とは、判断能力が低下する前に、判断能力が低下した場合に備えて、「任意後見契約」という契約を結んで支援者と支援内容を決めておき、判断能力が低下したときに支援を受ける制度です。

引用:認知症ナビ

本人が支援者や支援内容をあらかじめ決めておくことができるという点が、任意後見制度のメリットであり、法定後見制度との大きな違いです。

一方で、取り決めておける支援内容が限定的であることや、本人の財産を狙う親族に悪用されることなどデメリットもあります。

また、任意後見制度は法的な「契約」を結ぶ必要があるため、判断能力が低下してからでは利用することができません。

したがって、判断能力が残されているうちに制度について学習し、利用するか否か検討することが大切です。

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