認知症と遺産分割!相続人に認知症の人がいると成年後見人が必要?

遺産分割は、亡くなった人(被相続人)の財産を相続人に移す法律行為であり、相続人には意思能力が備わっている必要があります。

相続人の中に認知症により意思能力を欠いた状態の人がいる場合、そのまま遺産分割協議を進めると無効になり、成年後見制度の利用などを考えなくてはなりません。

この記事では、遺産分割の概要、相続人に認知症の人がいる場合の遺産分割について解説します。

遺産分割(遺産相続)とは

遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)の財産(遺産)の相続人が複数人いて、遺産が相続人の共有になっている場合に、遺産を分割して各相続人の財産にすることです。

遺産相続とは

遺産相続とは、被相続人の財産を、(戸主以外の)相続人が引き継ぐことです。

改正前の民法では、戸主の身分とそれに伴う財産を相続する「家督相続」と、戸主以外の人が財産を相続する「遺産相続」という2種類の相続制度がありましたが、改正後の民法(現在の民法)では家督相続が廃止され、法律上は遺産相続という言葉もなくなっています。

法定相続人の範囲と順位

日本では、民法上に相続人の範囲と順位が定められています。

民法に定められた相続人(法定相続人)の範囲は、被相続人が亡くなったとき(相続開始時)に生存している配偶者と子の他、父母や兄弟姉妹などです。

配偶者は、相続開始時に生存していれば、必ず相続人となります。

それ以外の血縁者には優先順位が定められており、優先順位が上位の血縁者が生存している場合は、下位の人は相続人にはなれません。

  • 第1順位:被相続人の子
  • 第2順位:被相続人の父母
  • 第3順位:被相続人の兄弟姉妹

相続開始時に被相続人の子が生存している場合、子(と配偶者)が相続人となり、被相続人の父母や兄弟姉妹は相続人にはなれません。

相続開始時に被相続人に子がいない(すでに亡くなっている場合も含む)場合、父母(と配偶者)が相続人になります。

相続開始時に被相続人の子も父母もいない場合、兄弟姉妹(と配偶者)が相続人になります。

遺産分割の手続

遺産分割の手続は、大きく分けて3つあります。

  • 遺産分割協議:相続人同士の話し合いで分割内容や方法を決める手続
  • 遺産分割調停:家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員会(裁判官と男女1人ずつの調停委員で構成されるグループ)を交えて遺産分割について話し合って決める手続
  • 遺産分割審判:遺産分割協議や調停でまとまらない場合に、家庭裁判所が相続人の主張や証拠に基づいて判断する手続

協議がまとまらない場合に調停、調停がまとまらない場合に審判という順序で手続を進めるのが一般的です。

いきなり遺産分割審判を申し立てることもできますが、家庭裁判所の判断で調停に回されることが多くなっています。

遺産分割の方法

遺産分割の方法には、以下の種類があります。

  • 現物分割:遺産をそのまま分割する方法(例:自宅の土地家屋は配偶者、現金は長男と二男など)
  • 換価分割:遺産を売却して代金を分割する方法(例:遺産の土地家屋を5000万円で売却し、配偶者が2500万円、長男と二男が1250万円ずつなど)
  • 代償分割:相続人の一部が遺産を多く取得し、別の相続人にお金を支払う方法(例:長男が土地家屋を取得する代わりに、配偶者と二男に土地家屋の評価額に応じたお金を支払うなど)

遺産分割と意思能力

遺産分割は、遺産の移転の効果を生じさせる法律行為であり、遺産分割を行う相続人には「意思能力(自分の行為が法律的にどのような結果を生じさせるかについて認識する能力)が必要です。

相続人の中に意思能力を欠く人がいるにも関わらず遺産分割協議が進められた場合、遺産分割協議書に署名・押印されていたとしても、その遺産分割は無効となります。

認知症の人は、症状の進行により認知機能が低下して意思能力を欠く状態となっている場合、自力で遺産分割協議を行うことができません。(参加しても無効となります。)。

相続人に認知症の人がいる場合の遺産分割

遺産分割をするには、相続人全員が分割に合意する必要があります。

意思能力を欠く状態の相続人を抜きでした遺産分割や、その人が不利になるような遺産分割は、当然に無効になります。

意思能力を欠く状態の人から遺産分割についての同意を取り付けたとしても、遺産分割が有効になることはありません。

意思能力を欠く状態の人に署名押印を強いたり、他の相続人が勝手に署名押印したりした場合、刑罰に問われることもあります。

相続人の中に認知症で意思状態を欠く状態の人がいる場合、遺産分割を有効に行うためには、認知症の人について代わりに遺産分割に参加する人(代理人)を選任する必要があります。

遺産分割と成年後見制度

認知症により意思能力を欠く状態の人に代理人をつけるには、成年後見制度を利用することになります。

成年後見制度とは、認知症などにより物事を判断する能力が十分ではない人について、その人の財産や権利を保護する人を選び、法律的に支援する制度です。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類あります。

  • 法定後見制度:すでに判断能力が低下している人に対して、家庭裁判所に成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)を選任してもらい、成年後見人等が財産管理や法律行為を代わりに行うことで財産や権利を守るための制度
  • 任意後見制度:判断能力が十分に残っている人が、判断能力が低下した場合に備えて、援助してもらう人と援助内容について「任意後見契約」という契約を結んでおき、実際に判断能力が低下した場合に契約に基づいた支援を受ける制度

通常、遺産分割を目的として認知症の人に代理人をつける場合、法定後見制度を利用する(家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、成年後見人を選任してもらう。)ことになります。

家庭裁判所が、認知症の人について成年後見人を選任したら、成年後見人が他の相続人と遺産分割協議を行い、認知症の人が適正な遺産を取得できるようにします。

相続人間で遺産分割協議がまとまれば遺産分割協議書を作成し、協議書に応じて遺産を分割します。

協議がまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てて話し合い、それでもまとまらない場合は審判によって家庭裁判所に判断してもらいます。

成年後見制度については、関連記事で詳しく解説しています。

遺産分割で成年後見制度を利用する場合のデメリット

通常、認知症などにより意思能力を欠く状態の相続人がいる場合、成年後見制度を利用することになります。

しかし、認知症の人に成年後見人等が選任され、遺産分割協議を進めることができるというメリットがある一方で、デメリットもあります。

まず、遺産分割を目的として成年後見制度を利用した場合、家庭裁判所は、たいてい弁護士など専門職が成年後見人等に選任しますが、専門職には仕事の内容などに応じて報酬を支払う必要があります。

おおむね月ごとの基本報酬に加え、遺産分割など特殊な仕事をこなした場合に支払われる付加報酬を支払わなくてはなりません。

また、一旦、成年後見人等が選任されると、特別な事情がない限り、認知症の人が亡くなるまで成年後見人等がついた状態が継続します。

成年後見制度は、本人の財産や権利を保護するための制度なので、たとえ制度利用のきっかけが遺産分割協議であったとしても、本人の財産や権利の保護が必要なくなるまでは、成年後見人等は仕事を続けなくてはならないのです。

遺産分割のために成年後見制度の利用を考える場合は、こうしたデメリットについてもあらかじめ把握しておく必要があります。

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