後見開始の審判前の保全処分とは?後見命令や財産管理者選任の効力は?

通常、後見開始の審判を申し立てると、家庭裁判所が必要な審理を行ったうえで本人に後見を開始し、本人を援助する成年後見人を選任します。

しかし、後見開始の審判の申立てから審判までには1~2ヶ月くらいかかります。

そこで、審判を待っていては、本人の財産が侵害を受けたり、本人の身体や生命が危険にさらされたりするおそれがあるときは、審判前の保全処分によって臨時的に必要な処分を行うことができるようになっています。

この記事では、審判前の保全処分の概要、後見開始の審判前の保全処分の内容と効力について解説します。

審判前の保全処分とは

審判前の保全処分とは、審判や調停の申立てから審判確定や調停成立までの間に、権利者の権利の実現が困難になり、権利者が重大な損害を被るおそれがある場合に、仮処分、仮差押えなど必要な保全を行う手続です。

あくまで本案の審判や調停が終わるまでの暫定的な措置であり、保全処分の申立てには必ず本案となる事件が必要です。

保全処分の要件

保全処分が認められるためには、保全の必要性と本案認容の蓋然性が必要となります。

  • 保全の必要性:権利の実現が困難になり、権利者が重大な損害を受けるおそれがある状況(事件によって具体的な状況は異なる)
  • 本案認容の蓋然性:本案が認められる確からしさがあること

審判前の保全処分の類型

審判前の保全処分は、その内容によって分類することができます。

  • 財産の管理者の選任、財産管理または本人の監護に関する指示
  • 後見命令(保佐命令、補助命令)
  • 職務の執行停止または職務代行者の選任
  • 仮差押え・仮処分その他必要な保全処分

成年後見制度に関する事件では、本人やその財産の状況によって請求する保全処分を検討することになります。

後見開始の審判前の保全処分とは

後見開始の審判前の保全処分とは、後見開始の審判の申立てから審判が確定して効力を生じるまでの間に、本人の命や身体に重大な危険が及ぶ、または財産が侵害されるおそれがあるときに、本人の身上監護や財産の保全(保護)を行う手続です。

後見開始の審判の申立てを行った場合、保全の要件(保全の必要性や本案認容の蓋然性)を満たしていれば、以下の保全処分を請求することができます。

  • 財産の管理者の選任
  • 事件関係人に対する本人の財産管理または監護に関する事項の指示
  • 後見命令

財産管理者の選任

財産管理者の選任とは、判断能力の低下した本人の財産を管理する人を選任する保全処分です。

後見開始の審判前の保全処分で選任される財産の管理者は、法定代理人の一種で、原則、民法103条所定の範囲内(権限の定めのない代理人の権限)で代理権を有しています。

民法103条では、権限の定めのない代理人の権限について、以下のとおり定められています。

権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する

  1. 保存行為
  2. 代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲内において、その利用または改良を目的とする行為

つまり、財産の管理者は、本人の財産の管理行為を行う権限のみを有しており、本人の財産を処分する権限はないということです。

例えば、本人の有価証券を管理することはできますが、売却することはできません。

ただし、預貯金の払い戻しや解約などは保存行為の一種とされており、財産の管理者の権限内で行うことができます。

民法103条の規定を超える行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。

事件関係人に対する本人の財産管理または監護に関する事項の指示

後見開始の審判前の保全処分では、財産の管理者を選任する以外に、事件関係人に対して、本人の財産管理や身上監護に関する事項を指示することもできます。

家庭裁判所が、本人のために必要な財産管理や身上監護に関する事項について事件関係人に指示を出し、事件関係人がそれを実行することになります。

後見命令

後見命令とは、財産上の行為について財産の管理者の後見を受けるよう、本人に対して命じる保全処分です。

財産の管理者を選任すると、財産の管理者が本人の財産の管理行為ができるようになりますが、本人の財産処分権には何ら影響がありません。

つまり、財産管理は財産の管理者が適切に行っていても、本人が一人で財産を処分することができます。

そのため、本人が不適切に財産を処分してしまう恐れが高い場合には、後見命令の保全処分によってこれを防止することになります。

後見命令は、成年後見人の取消権の先取りのようなものであり、本人が行った日用品の購入などを除く財産上の行為を包括的に取り消すことができます。

後見命令の審判をするには、原則、本人の陳述を聴取することとなっていますが、陳述聴取の手続きを経ることで保全処分の目的を達せられない事情がある、または心身の障害により陳述聴取ができないときは、手続を経ずに審判をすることもできます。

なお、保佐開始の審判では保佐命令、補助開始の審判では補助命令の保全処分を請求することができますが、それぞれ対象となる範囲が限定されています。

  • 保佐命令:民法13条1項所定の行為
  • 補助命令:補助開始の審判申立てと同時に(または補助開始の審判が確定する前に)同意権付与申立てがあり、その中で求めた行為のみ

民法13条1項所定の行為とは、以下の行為です。

第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

  1. 元本を領収し、又は利用すること。
  2. 借財又は保証をすること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。

後見開始の審判前の保全処分の要件

後見開始の審判前の保全処分の要件は、以下のとおりです。

  • 保全の必要性
  • 後見開始の蓋然性があること

後見開始の審判前の保全処分における保全の必要性とは、審判確定まで待つことができない事情のあることです。

例えば、判断能力が低下して早急に保護を要する人が一人暮らしをしている、判断能力の低下した人が自分の財産を失う行為をするおそれが高い、判断能力が低下して詐欺被害などで財産を奪われるおそれがあるなどの事情です。

後見開始の蓋然性とは、本人の判断能力が後見相当レベルまで低下していることの蓋然性です。

保全処分を申し立てるときは、医師の診断書など本人の判断能力を示す客観的な資料を提出することが求められます。

後見開始の審判前の保全処分の効力が発生する時期

  • 財産の管理者:財産の管理者になる人に告知されたとき
  • 事件関係人に対する本人の財産管理または監護に関する事項の指示:事件関係人に告知されたとき
  • 後見命令:財産の管理者に告知されたとき

なお、財産の管理者と事件関係人に対する本人の財産管理または監護に関する事項の指示については、即時抗告が認められていません。

一方で、後見命令は即時抗告をすることができます。

保佐開始の審判や補助開始の審判についても、即時抗告が認められているのは保佐命令または補助命令のみです。

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